《mycashmere》 original fantasy
『カシミヤの森のコピーヌ』

第12話「メリー、メリー、メリー、クリスマス!」

12月24日 午後7時ちょうど、エディの家。

天井まで届く立派なモミの木に、色とりどりのオーナメント。点滅するブルー、レッド、イエローのイルミネーションがひときわ美しく彩りを添えています。

テーブルにはモス・グリーンのカシミヤクロス、銀の蜀台に赤い大きなろうそく。

ベビー・コピーヌたちが手分けしたクリスマスパーティの飾りつけと、エディが心をこめたテーブル・セッティングはとても素敵に仕上がりました。タキシードに盛装したエディは玄関に立ち、お客さまをひとりずつお出迎え。

最初のお客さまはエボニー。

「エディのクリスマス・パーティはこちら?」
「さようでございます」
「メリー・クリスマス」
「ようこそ、エボニー。メリー・クリスマス」


続いてベビー・コピーヌたちが並んでやってきました。

「メリー・クリスマス」
「ようこそ、ベビーポーラー。メリー・クリスマス」
「メリー・クリスマス」
「ようこそ、ベビーエボニー。メリー・クリスマス」
「メリー・クリスマス」
「ようこそ、ローズ。メリー・クリスマス」
「メリー・クリスマス」
「ようこそ、スカイ。メリー・クリスマス」
「メリー・クリスマス」
「ようこそ、バン。メリー・クリスマス」
「メリー・クリスマス」
「ようこそ、リラ。メリー・クリスマス」


みんなうれしそうに1年に1回だけ、今夜だけの挨拶を交わして、お家の中に入っていきます。玄関にエンジェル・ベアが舞い降りてきました。

「オッケーだよ。すごそこに来てるよ」(エンジェル・ベア)
「わかった」(エディ)

エンジェル・ベアはパタパタと羽をはばたかせて、そのまま中に入っていきました。エディがそのまま立っていると、ハナがやってきました。ハナのバスケットの中から、ハニーバニーが笑顔をのぞかせています。

「おまたせ、エディ。メリー・クリスマス」
「ようこそ、ハニーバニー。メリー・クリスマス」
「こちらがハナ。今夜の大切なゲストだよ」
「ハナ、カシミヤの森のクリスマスへ、ようこそ。メリー・クリスマス」
「メリー・クリスマス。今夜はご招待ありがとう」


顔を見合わせたエディとハニーバニーは、こっそりウインク。ハニーバニーもひと仕事終えて、ほっとした気分のようです。こうしてゲストをみんな迎えてから、エディも部屋の中に入っていきました。

テーブルに着いたエディは、エキサイティングなパーティを期待してキラキラ輝くみんなの視線を一身に集め、ホストをつとめる栄誉を十分に味わってから、厳かに、しかも大きな声で、告げました。

「みなさん、クリスマスケーキの大入場です。

ゆっくりとキッチンのドアが開き、パパ・ポーラーとココがしずしずとケーキを運んできました。

直径1メートル、高さ50センチ、ダークブラウンに輝く素晴らしい特製ジャンボ・チョコレートケーキ。
カシミヤの森の恵みである、木の実やフルーツがちりばめられ、その豪華さにコピーヌたちは目を見張り、思わず盛大な拍手がわきあがりました。

その賞賛に応えるように、パパポーラーとココは、頭にのっけていた山高コック帽をとって、丁寧なおじぎをすると、拍手はさらに盛大なものとなりました。

拍手が鳴り止むと、エディが続けました。

「ハナのために、もうひとつのクリスマスケーキの入場です」

ハナはびっくりしました。私のために、って? 

そして、もう一度キッチンのほうを振り返ると、キョウが静かに歩いてきました。
胸の前に捧げた両手には、お皿にのった小さなチョコレートケーキがひとつ。
キョウはそのケーキをハナの前に置きました。

チョコレートケーキと言われれば、チョコレートケーキのような色と香り。パパポーラーとココの作ったケーキに比べると、あまりに貧弱で、形も少し崩れています。それでもキョウがこの日のために一生懸命に作ったことは、誰の目にもわかりました。もちろん、ハナにはキョウの気持ちが誰よりもよくわかりました。そのケーキには「ごめん」とデコレーションしてありました。

ハナはキョウの目を見て、言いました。

「ありがとう、キョウ」
「ゴメンね、ハナ」


そこでもう一度大きな拍手が沸きあがりました。

「ありがとう、みんな」(キョウ)
「本当にありがとう、みんな」(ハナ)

そこでまたまた三度目の拍手が沸き起こり、それが長く続きました。そしていちばん幼くて、事情がよくわからないリラが「まだかなあ、そろそろケーキ食べたいな」と思ったころ、部屋いっぱいにエディの声が響き渡りました。

「メリー、メリー、メリー、クリスマス!!!!」
「メリー・クリスマス!」
「メリー・クリスマス!」
「メリー・クリスマス!」
「メリー・クリスマス!」
「メリー・クリスマス!」
「メリー・クリスマス!」


このメリー・クリスマスの大合唱を合図に、パーティが本格的に始まりました。誰も、彼も、ハッピーな気分というのは、こういうことなのでしょう。

パパポーラーとエボニーは、パパポーラー特製の手作りシャンペンで何度も、何度も、乾杯しました。

ベビー・コピーヌたちは、すっかりケーキに夢中。ココが上手にケーキサーバーをあやつり、次々にやってくる「おかわりちょうだいコール」に対応しています。

エンジェル・ベアもはじめてのカシミヤの森のクリスマスにすっかり溶け込んでいる様子。ケーキを食べながらスカイと話し込み、銀河飛行法と空中飛行法の違いについて熱心に説明しています。

エディは素晴らしいホストぶりをみんなにほめられて大はしゃぎ。ハニーバニーと手を取り合ってツイストを踊り始めました。いつの間にかキョウとハナはそれを見て大喝采。ふたりも一緒に踊りだしました。

どれくらい騒いだことでしょう。夜が深くなったころ、エディがみんなに声をかけました。

「みんな、そろそろ時間だよ」

おや、パーティはもう終わりなのでしょうか?

エディの声に応じて、コピーヌたちは外へ出ました。

夜、本当にまっくらな夜。静かに、静かに、静かに、眠っている森。

コピーヌたちはひとことも交わさず、手をつないで丸く輪をつくりました。そしてゆっくり顔を見合わせると、呼吸をあわせ、いっせいに目を閉じました。全員で何かひとつのことを想うかのように。そして、全員で何かひとつのことを成し遂げようとするかのように。

変化は静かに訪れました。

夜の闇の中に沈み込んでいたコピーヌたちのシルエット。その輪郭がうっすらと光を発しはじめ、やがて、コピーヌたちのそれぞれのカシミヤは色とりどりの発光体になり、夜の闇の中に鮮やかに、本当に鮮やかに浮かび上がりました。

さらに光は、コピーヌの発する光に応えてゆっくり周囲に広がっていき、カシミヤの森全体が発光しはじめました。

目の前に広がっていく、荘厳に輝くイルミネーションのパノラマ。その光のひとつひとつはまるで、カシミヤの森に生きるすべてのいのちが、メリー・クリスマスを言っているようでした。

キョウとハナは静かに並んで立ち、壮大なイルミネーション・マジックにすっかり心を奪われていました。年に一度だけ、クリスマス・イブに、カシミヤの森は光に包まれる。その伝説が生きていることを、ふたりは知りました。

カシミヤの森からあなたに、メリー・クリスマス!

(つづく)

 (stories and concept by omrais and mycashmere)