《mycashmere》 original fantasy
『カシミヤの森のコピーヌ』

第15話「ほらそこに、うれしい春の息吹」

ここはベビーコピーヌたちが住んでいるお家。

まだまだ寒い冬の朝、お日様もまだ眠ったまま。7人のベビーコピーヌたちもぐっすり眠っているようです。そのとき、そっと玄関のドアを開けて、末っ子の女の子、リラが顔を出しました。そして、仲間のコピーヌたちを起こさないよう、そっとドアを閉めて、庭にかけだしていきました。


ベビーコピーヌたちのお家の庭には、いろんな楽しいものがあります。ぶどうのつるでバスケットゴールをつくったのは、ベビーポーラー、ベビーエボニー、スカイの男の子3人。ボールは、みんなで知恵を出して、大きなハチの巣をまるめてつくりました。ハチの巣のボールはクッションが良くて、とてもよくはずみます。よくはずみすぎて、なかなかゴールの中に入ってくれません。なんとかゴールに入ったときも、こんどは軽すぎるのでゴールの中に止まったまま、落ちてくれません。それだけじゃありません。この前なんか、ボールの中に残っていたハチが1匹飛び出してきて大騒ぎになりました。鼻の頭を刺されてしまったベビーエボニーは

「こんなに出来の悪いボールは、もうイヤだ!」
と言っていますが、それでも毎日3人で楽しくバスケットで遊んでいます。

木の枝でできたブランコは、ローズ、ココ、バン、リラの4人の女の子たちが力を合わせてつくりました。つくったブランコはひとつだけなので、しょっちゅう取りっこのケンカになります。そこで年上のローズがきめて、乗る順番は年の小さい順にという約束になりました。いつでもリラがいちばん乗り、というわけです。

でも、リラったら、きょうもこんなに早くからブランコなの?

いえいえ、どうやら違うようです。リラはブランコには見向きもせずに、庭のはしっこのほう、森に続く小さな小道のほうへかけていきました。そして立ち止まると、あたりの地面をきょろきょろと見回しました。

「あった!」

リラが見つけたのは、小さな、小さなチューリップの花。

きのうの午後、リラはブランコで遊んでいました。得意の立ち乗りで大きくこぎ上げ、一番高いところに上がったとき、お庭のはしっこのほうに小さな赤いものが見えました。そのときはなんとも思いませんでしたが、夜、ベッドに入ってから、その小さな赤いものが気になりだしました。

「なんだろう?」


リラはひとりで考えてみました。そして、思い出したのです。去年、あの場所にチューリップを植えて咲かせたことを。自分で球根を植え、毎日水をやり、大切に育てました。とっても大きな赤い花が咲いたので、ローズも、ココも、バンも、みんな喜んでくれて、リラのことをほめてくれたのでした。でも、その花が散ってしまってからは、すっかり忘れていました。

「明日の朝、確かめてみよう」


翌朝早く、まだみんながぐっすり眠っているときに、リラはひとり起き出して、その小さな赤いもののところにやって来たのでした。チューリップの前にかがんで、リラはじっと見つめていました。今年のチューリップは、ちょっと背の高さが低く、花の形もちょっと小さく感じられました。お水をちゃんとあげなかったからかな、とリラは思いました。

「ことしも忘れずに咲いたんだね、ありがと」


リラはとてもうれしくなりました。前の年、自分で大切に育てて咲かせたときとは違う、うれしさ。ちょっと不思議な感じで、何かにありがとうを言いたいような、そんな気持ちでした。リラはそのチューリップを応援するように、前から、横から、後ろから、上のほうから、そして下のほうから、何度も、何度も、ながめました。そして、新鮮なお水をいっぱいくんでこようと思って、小川のほうへかけだしていきました。

きっと、あなたのそばにも、もう春はきています。

(つづく)

(stories and concept by omrais and mycashmere)