《mycashmere》 original fantasy
『カシミヤの森のコピーヌ』

第20話「黄金のブラシを探せ 2:トンネルを抜けるとカチンコチンだった」

黄金のブラシを探しに3人のコピーヌが北へ旅立った翌日。カシミヤの森に残ったベビーコピーヌたちがパパポーラーのお家にやってきました。

「パパポーラー、黄金のブラシのこと、もっと教えてよ」(ローズ)
「いいよ。私が知っていることを教えてあげよう」(パパポーラー) 


パパポーラーはのそりとハンモックへ。ベビーコピーヌたちはハンモックを取り囲むようにして思い思いにくつろぎました。パパポーラーは古い本で読んだという、こんな話をしてくれました。

昔、昔、ずっと大昔。カシミヤの森には、しなやかなカシミヤを身にまとったコピーヌたちと元気に駆け回る馬たちが一緒に暮らしていました。馬たちのシッポが伸びてくるとコピーヌがきれいに切りそろえてやりました。馬たちは感謝の気持ちとして、そのシッポの毛をコピーヌにプレゼントし、コピーヌは上手にブラシに仕上げてカシミヤの手入れに使っていました。こうしてコピーヌと馬たちは、とても仲良く暮らしていました。

あるとき、お母さん馬から黄金に輝く赤ちゃん馬が生まれました。

黄金の馬は全身がキラキラかがやき、馬の仲間はもちろん、コピーヌたちからも大変に可愛がられて育ちました。でも困ったことに、からだがとても弱かったのです。とくに暑さに弱く、夏にはいつもぐったりしてしまい、みんなは心から心配しました。まだ幼い頃の、ある年の夏。とうとう暑さに耐えかねて、本当に重い病気にかかってしまいました。

「もっと涼しいところ、寒いところでなければ、この子は生きていけない」


そう考えたお母さん馬は仲間に相談しました。馬たちは黄金の馬を自分たちの大切なシンボルと考えていたので、全員そろって北にあるノースランドに移住することにしました。コピーヌたちは残念でしたが、黄金の馬を救い、仲良しの馬たちが生きていくために必要なことだと考えて、気持ちよく送り出してあげることにしました。

ただ、ひとつ問題がありました。カシミヤの森からノースランドへ行くためには、ビッグマウンテンを超えていかなければなりませんが、ビッグマウンテンはとても高く険しく、馬たちはとうてい越していくことができません。そこでコピーヌたちはビッグマウンテンにトンネルを掘ることにしました。森のコピーヌたち全員が力を合わせて掘り続けること1000日。コピーヌたちの色とりどり自慢のカシミヤが泥で真っ黒になってしまったころ、カシミヤの森からノースランドへ抜けるトンネルが開通したのです。

「いまごろエボニーたちは、そのトンネルのあたりじゃないかな」(パパポーラー)
本当にちょうどその頃、エボニーたちはもうトンネルの中にいました。

「痛ッ、エディ、もうちょっと離れてよ!」(エボニー)

「だって、恐いんだもん」(エディ)
「ベビーポーラー、ちゃんと地図見てる? トンネルはまだ続くの?」(エボニー)
「そうですね。いままだ半分くらいです」(ベビーポーラー)
「でもどうしてこんなトンネルがあるんだろ?」
「謎ね。でも、スリルでワクワクしてきちゃう」


そのときエディが何かにつまずいて、転んでしまいました。

「イテテテ」
「バカね。だいじょうぶ?」
「あれ、これ何だろう?」
「どうしたの?」


エディはトンネルの壁に何か文字のようなものが刻まれているのを発見しました。

「何か書いてあるよ」
「どれどれ」


エボニー、エディ、ベビーポーラーが顔を近づけてよく見るとこんな文字が書かれてい
ました。

  カシミヤの森には黄金の友情を!
  エディにはおいしいドーナッツを!

「どういうこと?」(エボニー)
「どうしてボクの名前が??????????」(エディ)
「前に来たことあるの?」(エボニー)
「ないよ!」(エディ)
「でもこの黄金の友情というのも、どういう意味だろう?」(ベビーポーラー)
「黄金のブラシに関係あるのかな?」(エディ)
「謎、ますます謎。キャッホー、おもしろそー」(エボニー)


場面はもどって、カシミヤの森ではパパポーラーが話を続けています。

「そのトンネル堀りで活躍したのが、エディのおじいさんなんだ」


エディのおじいさんはエディと同じように、といっても気のいいコピーヌで、馬たちのために一生懸命にトンネルを掘りました。トンネルが完成したとき、みんなからとてもよく頑張ったとほめられ、記念にトンネルにサインする栄誉を与えられることになりました。そこでエディのおじいさんはトンネルに入っていき、トンネルのどこかに記念のサインをしました。でもとても照れ屋だったので、どんなメッセージをどこに書いたかは誰にも言いませんでした。

「そうだったの」(ローズ)
「エディのおじいさん、エディそっくりだったんだろうね」(バン)
「そうだよ、きっとドーナッツも大好きなんだよ」(ココ)
「アハハハ」(リラ)
「トンネルが完成すると、馬たちは別れを惜しむようにトンネルの中をゆっくりゆっくり歩いて、ノースランド移住していった」(パパポーラー)


そのとき馬たちは、コピーヌたちへの感謝を込めて、いつか北の国を訪ねて来て欲しい、そのとき黄金の馬が元気に成長していたら、黄金のブラシをプレゼントする、というメッセージと、そのときつくることができたシッポのブラシをたくさん残していきました。

「ほら、いまキミたちが使っているブラシも、そのときのものだ。もちろん黄金の馬は病気だったので、シッポのブラシは作れなかった。黄金のブラシはカシミヤの森の伝説として残ったんだ」
「いままで北の国へ、馬たちに会いに行ったコピーヌはいたの?」
(ココ)
「100年前に、私のおじいさんが行った」
「どうなったの?」
(バン)
「帰ってこなかった」
「死んじゃったの?」
(スカイ)
「いや、ときどき私の夢に出てきて話をする。いまはノースランドで元気に暮らしていて、すごく大きくなったらしい」
「大きくなったって?」
(ベビーエボニー)
「ずいぶん食べ物がおいしくて、ジャンボサイズになった」
「ジャンボ・ポーラーね、楽しそう」
(ココ)
「ノースランド、私も行ってみたーい!」(リラ)
「でも、想像以上に寒いらしいよ」

場面変わって、またまたトンネルの中。3人は歩き続けています。

「エボニー、ボクもうダメだ。暑くてしんどいよ。セーター脱いじゃいたい」
「パパポーラーが寒いから気をつけてって、言ってたじゃない。脱いじゃダメよ」
「じょうだんじゃない。汗だくだよ。もうたくさんだ」


エボニーが止めるのを無視して、エディはセーターを脱ぎました。

「あー、涼しい」


とそのとき、とつぜん、エボニーが明るい声を上げました。

「やった、出口だ。ノースランドだよ」


エボニーが出口に駆け寄り、前をふさいでいる石や葉っぱをとりはらうと、身も凍るようなものすごい冷気が一気にトンネルの中へ!

「ヤ、メ、テ‥‥サ、ム、イ‥‥コ、オ、ッ、テ、シ、マ、ウ‥‥タ、ス、ケ、テ」 


後からやってきたベビーポーラーが、ちょっと前までエディだった物体にさわると、カチンコチンに固まっています。

「だからセーター脱いじゃダメって言ったのに」

エボニーが戻ってきてエディを抱えると、どっこいしょとトンネルの外まで運びました。こうしてついに、2人のコピーヌと1人のアイスマンが、ノースランドの地に立ちました。ジャンボ・ポーラー以来、100年ぶりのコピーヌたちの訪問でした。

(つづく)

(stories and concept by omrais and mycashmere)