《mycashmere》 original fantasy
『カシミヤの森のコピーヌ』

第3話「エボニーベアのゆかいな宇宙旅行」 (Part1) 出発」

ここはカシミヤの森のはずれ、モーソーバンブーの林。

モーソー竹という名前の、太くてノッポの竹がたくさんならんで、まっすぐ空へ伸びています。

時間は深夜、空にはまんまるお月さま。

風が吹くと、てっぺんの茂った竹の葉っぱが揺れて、ザワザワ、ザワザワ、
まるでおしゃべりをしているよう。

そんな誰も来ない、夜のモーソーバンブーの林に、2つのまるい光がトコトコと並んで近づいてきます。

こんな時間に、いったい誰が‥‥

「エボニー、ほんとに飛べるのかい」
「ほんとうよ。ビューンって、お月さままで飛んでいけるんだから」


なかよしコンビのエディベアとエボニーベアです。
ふたりとも頭にかわいいヘッドライトを付け、ライトがつくるまあるい明かりの中をトコトコ歩いています。

でもエディはいつもの元気がありません。何に使うのか、肩にはロープの束をかついでいます。

エボニーは元気いっぱい、背中にリュックを背負って歩いています。リュックの名札ラベルには「キャプテン・エボニー」のサイン。

「リュックの中には何が入ってるんだい?」
「宇宙食よ」
「見せてよ。なんだ、クッキーじゃないか」
「おなかすくんだよ、宇宙旅行って」


「でもどうしてこんな夜中に出発するんだい?」
「発射台よ。いまならよく飛ぶんだよ」


「どういうこと?」
「きのう雨が降ったでしょ。
雨が降った後の夜は、竹がグングン伸びるの。
すごい力でね」
「ふーん」
「このあたりにするわ」


エボニーがひときわ太くて高いモーソー竹のところで足を止めました。

「じゃ、ワタシが言った通り、よろしくね」

そういうと、エボニーは1本のモーソー竹にとびつき、スルスルッと登っていきました。
心配そうにエディは下から見上げています。

「怖くないのかな。あんなに高く登っちゃって」


エボニーはまっすぐ上を見つめて、どんどん登っていきます。


「もうすぐそっちに行くよ、お月さま。待っててね」

エボニーが上っていくと、竹はエボニーの重みでしなり、少しずつ曲がります。
どんどん登っていくと、ついに重みで耐えられなくなり、グニャと曲がって地面のほうへ大きくお辞儀をしました。

「エディ、早く!」


エディは急いでかけ出していき、モーソー竹の先っぽにとびついて地面のほうに引くと、ロープをかけて近くの竹にギュッとしばりました。

「オッケー、その調子。次、いくよ」


エボニーはまた別の竹にとびつくと、スルスルッと登っていきました。
そしてまたエボニーの重みで竹がグニャっと曲がって降りてきたところで、その先っぽをエディがロープで縛りました。エボニーとエディは力を合わせて、一生懸命に働きました。

でも、いったい何をしているんでしょう?

やがて、ふたりの仕事が終わりました。一緒にならんで息をはずませているエボニーとエディ。

ふたつのヘッドランプが照らす場所を見ると、10本のモーソー竹の先っぽがひとつに合わさっていました。
並んだ10本のモーソー竹は大きくしなり、立派なアーチをつくっています。
10本の先っぽは隣の竹の幹にしっかり結び止められていましたが、ロープがちょっとでもゆるむと、ものすごい力ではじき返されそうです。

「バンブージャンプ発射台、準備完了」


エボニーはエディのほっぺにすりすり、ほっぺたっち。

力を貸してくれたなかよしの仲間にサンキューの気持ちを伝えると、エボニーは10本の竹の先っぽにちょこんとのっかりました。

「エボニー、本当に大丈夫?」


エディは見かけと違ってデリケートな性格で、エボニーのことがとても心配です。

「さ、宇宙へ出発。エディ、カウントダウン、いくよ! テン、ナイン‥」
エディはあわててロープにかけよりました。

「エイト、セブン」
エディは少し緊張しながら、ロープの結び目をしっかり握りしめました。

目の前にちょこんと座って打ち上げを待つキャプテン・エボニーの勇姿が見えます。
エボニーの目はまっすぐ上を、空のお月さまを見上げています。

「よし、エボニー、がんばれ」
エディは心臓がバクバク、ドキドキしてきました。

「シックス、ファイブ」

そのときエディのヘッドランプの光に誘われて、夜道に迷ったハチが一匹飛んできました。

「フォー、スリー」


エディは以前にひどい目にあったので、ハチのことが大嫌い。
エディは思わずピョンと跳んで、エボニーのいるほうへ逃げました。

「ツー」


ハチは飛んでいきました。エディはほっとしました。

あれ、でも、ちょっと何かヘン。エディの前には竹の林と暗闇があるばかり。さっきまで見えていたエボニーの勇姿がありません。

「ん?」


大変! エディが発射台の上に立ってる!

「ワンッ、Go!」

エボニーの声に思わずつられて、エディはロープの結び目を一気にほどきました



ザ、ザ、ザ、ザ、

シュブ、ブ、ブ、ブ、ブ、
バババ、ザワッ、
シュ、シャ、シェ、バギョ、ベギュ、

ガシューーーーーーーーンンン!!!


「ヤッホーーーーーーー」
「あ、うあ、あああああああああああ・・・」


最初の元気な声はエボニー。カシミヤの森のバンブージャンプ発射台から、計画通り、宇宙旅行に出発です。

どんなお土産を持って帰るのか、楽しみです。

もうひとつの声はエディ。そんな気はぜんぜんなくて、エボニーの手伝いをしていただけなのに、一緒に打ち上げられてしまったかわいそうなエディ。大丈夫でしょうか?

でも、なんだか、すごく楽しいことが起こりそうな予感がします。つづきをお楽しみに。

(近日公開「宇宙のおみやげ」編につづく)

(stories and concept by omrais and mycashmere)