《mycashmere》 original fantasy
『カシミヤの森のコピーヌ』

第5話「エボニーベアのゆかいな宇宙旅行」 (Part2)
またまたエディの大失敗

第3話でカシミヤの森のバンブー・ジャンプ発射台から、元気よく(ひとりは間違って)宇宙へ飛び出したエボニーとエディ。その後、どうやら順調に飛行を続けています。

「エディ、宇宙旅行の気分はどう?」
「じょうだんじゃないよ。どうしてボクが宇宙にいるんだ?! あ、あんなに地球が小さくなってる」
「わたしはサイコーよ。ね、クッキー食べる?」
「いらないよ。ね、エボニー、早く帰ろうよ」


偶然のトラブルで宇宙旅行の仲間が増えて喜んでいるエボニー。でもエディは宇宙まで来ているというのに、まだ納得がいかないようです。(くわしくは第3話を読んでね)

重力のない宇宙では、いろんなものがプカプカ浮かびます。クッキー、ガム、宇宙旅行のパンフレット、かわいいマグカップ。みんなエボニーのリュックの中から浮かんで出てきたものばかり。お気に入りのモノに囲まれて、エボニーはすっかりくつろいだ様子。

無重力が楽しくて、ゆっくりでんぐりがえりを繰り返しながら、クッキーに手を伸ばしたり、パンフレットを広げて月面観光の計画を練ったり‥‥。エボニーはうれしくなって歌を歌いはじめました。

  ♪ フライ、ミー、トゥー、ザ、ムーン
  アン プレーイ、アマン、ザ、スターズ ♪

この歌は、宇宙旅行の準備でパレットタウンに行ったとき、人間のともだちのキョウという男の子が教えてくれた歌。

この歌は、本当は恋の歌なのですが、月への旅行を控えたエボニーのお気に入りソングになりました。(ついでに言うと、その歌を教えてくれたキョウはいま恋をしていました。キョウの恋の話は、近いうちのお楽しみに!)エボニーはお気に入りの歌の、そのまたお気に入りの最初のフレーズを、繰り返し、繰り返し、歌いました。

  ♪ フライ、ミー、トゥー、ザ、ムーン
  アン プレーイ、アマン、ザ、スターズ ♪


エボニーのかわいい歌声は、あっちの星にぶつかり、こっちの星にはじけたりしながら,どこまでも広がる青くすきっとおった宇宙空間に吸い込まれていきました。

やがてエボニーは、宇宙旅行パンフレットの付録についていた宇宙コンパスを取り出して現在位置と月への軌道を測ってみました。

「いいわ、この軌道でぴったり。もうすぐ月に到着よ、エディ」
「ねえエボニー、やっぱり月はまたこんどにしない?
ボクはいまから帰るっていうのもいいアイデアだと思うけどなあ」

「いつまでもそんなこと言わないでよ」
「ボク、なんだか、ちょっと気持ちわるくなってきちゃった」
「宇宙酔いかも。すぐ慣れるから大丈夫よ」
「早く帰りたいなあ。パパポーラーと一緒にハンモックでお昼寝したいなあ」

「いいかげんにしてよ、エディ。
いまからもし帰るとしたら、風船ジェットを使って軌道を変えなきゃいけないのよ。
でも1個しかないから、それは月から帰る時に使うの」

「その風船ジェットって1個しかないの?」

「そうよ、1個きり」
「もし何かあったら、どうするの?」
「何かって、何よ?」

「わかんないけど、何かあって、ボクたちが進んでいる軌道がずれちゃう、とか」
「そんなことあるわけないじゃない」
「そうかなあ、心配だなあ。あ、やっぱり気持ち悪い、宇宙酔いだ」


そのときエディの目の前に、きらきら輝く金色の小さな糸くずのようなものが漂ってきました。

なんだろう?と不思議に思い、2つのまん丸の目を真ん中に寄せて、じっと見入るエディ。

さらに眼を凝らしてその正体を見ようとしたとき、その金色の糸くずが、ぽっかりあいたエディの右の鼻の中へ。
とつぜんの異物の侵入に、鼻の中はちょっとビックリ。

その後、あれ、ちょっとヘンな感じ、と思っていたら、しだいにムズムズ、ムズムズ、モゾモゾ、モゾモゾ‥‥。

あ、くるな、と思ったとたん、

「ハックション!」


ああ、気持ちよかった、とひと安心のエディ、続けざまに、もうひとつ小さく、

「ハックション」
と、おまけのくしゃみ。そのとき、突然、エボニーが大声を上げました。

「大変、いまのくしゃみで軌道がずれちゃったかも?!」


エボニーはすぐに宇宙コンパスを取り出して軌道を測りました。このまま進むと、やっぱり月への軌道を大きくはずれてしまいます。もしかすると宇宙の迷子になってしまうかもしれません。でも、1個しかない風船ジェットをここで使うわけにもいきません。

ちょっと考えてから、エボニーは素晴らしい名案を思いつきました。

「エディ、もう1回くしゃみして!」
「えっ?」
「さっきとちょうど同じ力加減で、さっきとは逆の方向にくしゃみするのよ。
つまり逆噴射くしゃみってわけ。きっと元の軌道に戻れるはずよ!」


さすがエボニー!と感激したエディ、エボニーの言うとおりに、自分の鼻を指で持ってしっかり鼻の向きを定め、さっきのくしゃみの力加減を一生懸命に思い出しながら、慎重に、慎重に、慎重に、

「ハックション!」
「あ、ダメ、ちょっと行き過ぎた。こんどはまた反対に、もうちょっと弱く」


エボニーに言われたとおり、こんどは少し力加減を弱めて、


「ハックション!」
「また行き過ぎちゃった。こんどは反対にもう1回、ちょっと強く」
「ハックション!」
「またダメ、もう1回、反対方向よ」

エディも必死になって、逆噴射くしゃみを続けました。
あっちむいて「ハックション」、こっちむいて「ハックション」、
またまた、あっちむいて「ハックション」、こっちむいて「ハックション」‥‥

でも、エボニーの出す指示があんまり急なので、少しずつくしゃみが追いつきません。
やがてエボニーが「右に!」というときにエディは左へしゃみ、エボニーが「左に!」というときにエディは右にくしゃみする始末。

いつのまにか、ふたりのからだは、右へくるくる、左へくるくる。

宇宙酔いのうえに、くるくるからだが回るので、エディは目が回ってしまい、ますます気持ち悪くなりました。
しかも、くしゃみを無理やり繰り返したので鼻のあたまはまっかっか、痛くて、痛くてたまりません。とうとう涙と鼻水で、顔がぐしゃぐしゃになってしまいました。


「エディ、左よ、左」
「エ、ボ、ニー、もう‥‥」
「早く、がんばって!」

「いたいんだ、クスン、もう、だめな‥‥んだってば」
「ダメ! くしゃみしなくちゃ、月どころか、カシミヤの森にも帰れないのよ!」

「ボクはもうダメだあ、もうほっといてよ‥‥」
「ほっとけないのよ、ふたりとも大変なんだから!
ね、エディ、お願いだから、くしゃみして」

「もう、くしゃみは、いやだ」

「ダメ! くしゃみして━━!」
「もう、くしゃみは、ゼッタイにイヤだ━━!」


自分では制御不能になって、別々の方向にくるくるでんぐりがえりしながら、大声で叫び合うエボニーとエディ。

このままブラックホールに吸い込まれてしまうのでしょうか?

そのとき、ふいに上のほうから声がしました。

「キミたち、こんなところで、何してるの?」


つづきは「エボニーのゆかいな宇宙旅行 Part3:エンジェル・ベア登場」へ

(stories and concept by omrais and mycashmere)