《mycashmere》 original fantasy
『カシミヤの森のコピーヌ』

第6話「エボニーベアのゆかいな宇宙旅行」(Part3)
エンジェル・ベア登場

「キミたち、そんなところで、何してるの?」

ここは、ひとっこひとりいないはずの宇宙。それも、大変な危機に陥ってパニック状態のまっただなか(第5話参照)。

そんなところで、こんなときに、当たり前のあいさつみたいにのんきな呼びかけられ方をするなんて‥‥。

エボニーとエディは、びっくりして、あっけにとられて、頭の中は真空状態。それまでの大騒ぎはどこへやら、しんと静まり返りました。

「ねえ、さっきから何をしてるんだい?」

もう一度、声がしました。制御不能のまま、クルクルでんぐりがえりを繰り返しをしながら、ふたりはゆっくりと声のしたほうを見上げました。

そこには、見慣れないコピーヌがプカリと浮かんでいました。胸にはラメの星形マークに蝶ネクタイ、背中には金色の羽。パタパタとはばたきながら、すました顔でふたりを見おろしています。

「ねえ、何してるの? 遊んでるの?」
「‥‥遊んでなんかいないわよ」

やっとのことでエボニーが答えました。

「でも、くるくる回って、大声あげて、楽しそうにしてたよ。ボクも仲間に入れてよ」


「そんなんじゃないんだ。困ってるんだよ」

エディはまだほっぺに涙をうかべたまま、そう訴えました。

「ふーん。助けてあげようか?」
「できるの? じゃあ、でんぐりがえりを止めてよ」


金色の羽のコピーヌが舞い降りてきて、ふたりのからだを人差し指でツン、ツンと順番におさえると、でんぐりがえりはピタッと止まりました。

「ああ、よかった。もうダメかと思ったよ」
「エディがくしゃみしないからよ」

「もう10年分のくしゃみをしたよ。あ、ヘンだぞ、またムズムズしてきたぞ‥‥」
「あ、私もムズムズしてきた、‥‥ハ、ハ、ハ、ハックション!」

「どうして、エボニーまで?」


そのときエディは、金色の糸クズのようなものが漂っているのに気づきました。

「エボニー、これだよ、ボクが最初にくしゃみした原因は!」
「それ、ボクの羽毛だよ」


金色の羽のコピーヌは涼しい顔をして言いました。

「いま宇宙カシミヤの生え変わり時期だから、こまかいのが飛ぶんだ。気にしないでいいよ」


これでくしゃみのなぞが解けました。金色の羽のコピーヌがパタパタと羽ばたきするたびに、とっても小さなカシミヤ羽毛が飛び散って、それがエディやエボニーの鼻をくすぐって、くしゃみを出させていたのです。

「あなたのせいだったのね、軌道がずれたのは!」

「よくわかんないけど、そうかもしれない。そんなことより、一緒に遊ぼうよ。キミたち、どっから来たの? そのクルクルでんぐりかえりするの、おもしろい? ボクにもやらせてよ」

「だから、遊びでやっているんじゃないの。失礼ね!」


でも、このコピーヌはいったい誰?不思議に思ってエボニーが問いかけました。

「あなた名前は?」
「マイ、ネーム、イズ、エンジェル、です」
「男の子、だよね?」
「そう見える? 大正解!」
「どこから来たの?」
「あっち」


エディがエボニーをつっついてこっそりと話しかけました。

「エボニー、気をつけるんだよ。ヘンなヤツかもしれないよ」

エボニーはエディに軽くうなづいてから、質問を続けました。

「あなた、いくつ?」
「ノーコメント。このへんでは長生きの星系だと思うけど」

「‥‥飛べるの?」
「うん。毎日、飛んでる。きのうは2万光年先のブラックホールへ生ゴミを捨てに行った。
健康のために1日1万光年以上は飛びなさいって、銀河保健センターも言ってるし」


宇宙を飛べるなんて、なんて素敵なんでしょう。エボニーは不思議なコピーヌの背中にある金色の羽をうっとりとながめました。

「そうだ! 飛べるんなら、助けてよ!」


それまでエボニーの後ろにかくれていたエディが、突然、声をあげました。

「助ける? どうして欲しいの?」

「ボクたちをカシミヤの森に連れて帰ってよ」
「いいよ。でも、そうしたら一緒に遊んでくれる?」

「もちろんだよ。カシミヤの森にはボクたちコピーヌの仲間がいっぱいいるんだ」

「おもしろそうなところだね。ボクはずっとひとりだからトモダチが欲しいんだ。
ぜひ行きたいな。送ってあげるよ」


それを聞いて、こんどはエボニーが声をあげました。

「ダメよ。月に連れてってよ。帰るのはその後!」
「イヤだ。ボクはゼッタイいますぐ帰る」


エディも今度はひきさがりません。

「いいよ。両方かなえてあげるよ。さあ、ボクの手を持って」


金色の羽のコピーヌはふたりの前に両手を差し出しました。

「両方?」


エボニーはけげんな思いをしながら、それでも何かしら期待に胸をふくらませて、差し出された右手をにぎりました。それを見てエディも、不安そうな顔をしながら、おずおずと左手をつかみました。

「じゃ、行くよ」


そのひとことが合図でした。3人のコピーヌは猛烈なスピードで再び月に向かって飛び立ち、あっという間に小さく、小さくなっていきました。


その夜、地球各地の天体ファンから、不思議な現象が報告されました。

ある人は、月の周囲を超高速でグルグル回る不思議な物体を観測しました。また別の人は、月面を走り回って遊んでいる3匹のクマを観測しましたが、専門家からは「ウサギの間違いではないか」と指摘されています。またテレビで衛星中継を見ていた人は、不思議な雑音に気づきました。

「海外ニュースの時です。かわいい笑い声にまじって歌声が聞こえてきました。
聞いたことありますよ、確か、フライミートゥザムーンのメロディでした」



その次の、次の日の午後。場所は、カシミヤの森にある泉のほとり。水遊びにやってきたベビー・コピーヌたちがゆったりとくつろいでいます。泉は静かに水をたたえ、やさしい陽光を照り返しています。あんまりおだやかな気分なので、コピーヌたちも眠たそう。

と、そのとき、

  バッシャーン!
  ボッショーン!


平和を乱す、突然の波しぶき。それも続けて2つ。空から何かが落ちてきたのでした。

ベビー・コピーたちは飛び起きて泉を見つめました。

やがてブクブクと浮き上がってたのは、エボニーとエディ!

「ただいま、宇宙旅行から無事帰還!」


キャプテン・エボニーは相変わらずとても元気。

「ヤッホー。宇宙旅行ってサイコー!」

おやおや、エディまですっかりゴキゲンな様子。よかったね。

勇敢なふたりの宇宙飛行士を迎えて、ベビー・コピーヌたちは「おかえりなさい」のほっぺたっちをしました。

と、そのとき、スカイが空を指差しました。

「あれは、なんだろう?」


そこには金色の羽をパタパタさせて、悠々と空を飛んでいるコピーヌが‥‥。

「宇宙旅行のおみやげ、エンジェル・ベアだよ」


エボニーが紹介すると、エンジェル・ベアが気持ちよさそうに空をくるりと飛んでみせました。

金色の羽で空を飛べるエンジェル・ベア! 

星型リボンと蝶ネクタイで、ちょっと気取ったおしゃれなエンジェル・ベア! 

宇宙からやってきた新しい仲間を迎えて、もっともっと楽しくなりそうなカシミヤの森でした。

(つづく)

(stories and concept by omrais and mycashmere)