《mycashmere》 original fantasy
『カシミヤの森のコピーヌ』

第13話「スカイのニューイヤー・ハッピーフライト」

ここはカシミヤの森がぐるっと見渡せる丘の上。

気持ちのいいさわやかな風が吹いてい
ます。聞こえてくるのは、楽しく歌う鳥たちのさえずり。新しい年をカシミヤの森の生
きものたちも祝っています。

「どっこらしょ、よっこらしょ」
鳥たちのさえずりに混じって、どこからか声が聞こえてきます。

「どっこらしょ、よっこらしょ」
声が聞こえてくるのは、どうやら丘に上がってくる小道のほうから。

「どっこらしょ、よっこらしょ」
最後にひとこえ大きく上げて、声の主が丘の上に立ちました。スカイ。ベビーコピーヌ
の上から3番目の男の子。空の色と同じあざやかなブルーのカシミヤが汗でキラキラ輝
き、背中にはでっかい荷物を背負っています。

「飛行訓練生、スカイ。ただいまカシミヤの丘飛行場に到着」


なんと雄雄しく立派な姿でしょう。口もとはきりっと引き締まり、つぶらなどんぐりま
なこは、はるかかなたの大空を見上げています。鳥のように空を飛びたい、そんな夢を
抱いていたスカイ。酉年のニューヤーを迎えて、ついにチャレンジを始めるのです。

「よし行くぞ、リーフプレーン号!」

そう叫ぶと、スカイは背負った大きな荷物をおろし、その中から、木の葉で編んだ翼を取り出しました。

翼の骨組みは、木の枝にかけられたくもの巣。細長い枝の下に張り巡らされたくもの巣を、枝のついたまま折り取り、その上に、色とりどりの木の葉が貼り付けられています。スカイが森の材料を使って自分で工夫し、せっせと手作りした翼です。軽さといい、大きさといい、形といい、素晴らしいアイデアです。

スカイは木の葉の翼を両手に持ち、頭の上に差し上げ、目の前に広がる丘の斜面を見下ろしました。なだらかな斜面は、そそまま自然がつくった絶好の滑走路。と、そのとき、ちょうどいい向かい風が吹いてきました。

「レッツ・ゴー!」 


口を真一文字にきりむすび、一気に駆け出しました。短くてちょっと太目のかわいい足が、クルクル、クルクル急速回転。ものすごいスピードで一生懸命に駆けて行くスカイ。


頭の上に掲げた木の葉の翼は、大きく風をはらんでふくらんでいます。

「いまだ!」
スカイは、思いっきり地面を蹴りました。

あっ、飛んだ!と思った瞬間、スカイのからだは地面にたたきつけられました。

「いたたたた、痛―い」


目から火が出るとはこのこと。おでこをさわってみると、でっかいたんこぶがひとつ。 
そばを見ると、翼が壊れ、葉っぱが5枚欠けていました。痛みをこらえながら、スカイはとぼとぼと歩いて丘の上にもどっていきました。

「いまのは何だ?」
「地震か?」


驚いたのは丘に住むモグラたち。地面を揺るがすスカイの大転倒で昼寝をじゃまされ、地中から頭を出してきました。それでも、これから何が起きるのか興味津々の様子。 
ぴょこんと出した頭をずらっと並べ、サングラスをかけて見物を始めました。

丘の上のスタート地点に着いたスカイは、おでこのたんこぶをさすりながら、傷んだ翼の点検をしました。どうやら、くもの巣の骨組みは大丈夫です。そこで、近くから葉っぱを5枚集めてきて、壊れた翼を修理しました。

「スピードが足りなかったのかなあ?」


やがて修理を終え、スカイは再び翼を持ってスタートラインに立ちました。目を閉じると、エンジェルベアの言葉が思い浮かびます。

「ねえ、スカイ。空から見るとね、カシミヤの森は大きな島のように見えるんだ」


本当にそう見えるのかな、僕もエンジェルベアのように空を飛んで、確かめて見たい。 
スカイは小さなからだに気力がみなぎるのを感じました。

「よし、こんどこそ飛ぶぞ!」


スカイは猛然と駆け出しました。いったいなんというスピードでしょう!
後ろ姿から炎が噴き出しそうな勢いで駆けてゆきます。ほっぺを真っ赤にして駆けるスカイ。いきおいよく風をはらんで、まんまるにふくらむ木の葉の翼。もしかしたら、こんどこそ、本当に飛べるかもしれません。1回目に地面を蹴ったところを通り過ぎました。でも、スカイは地面を蹴りません。

「もっと、スピード!」

 日向ぼっこしながら見物しているモグラたちの前も通り過ぎました。

「まだまだ、もっとスピード!」


急速回転する足は、うなりをあげて、煙を出して回り続けます。そのとき、前方の地面にちょうどいいこぶがあるのが見えました。

「よし、ここだ!」


地面のこぶに右足を踏み込むと、空に向かって思いっきり蹴りました。ふわっと浮いて、自分のからだが空に溶け込んでいくのを、スカイは感じました。

「やった! 浮いた! 飛んだ!
と思った瞬間、なんということでしょう、再び、まっさかさまに地面が近づいてきます。

「あ、ダメだ、危ない!」


思わず目を閉じて、さっき以上の大転倒を覚悟したスカイ。ところが、どういうわけか、自分のからだは反対に急速に上昇していきます。目を開けてみると、丘が小さく見えます。

「・・・・・飛んでる?!」
「スカイ、どうだい、気分は?」

エンジェルベアでした。スカイは大転倒の寸前にエンジェルベアに助けられ、カシミヤの森の上空を飛んでいました。

「ありがとう、エンジェル。初飛行にしては上々の気分だよ。でも、おでこのたんこぶはちょっと痛いけど」
「それはチャレンジャーの勲章さ」


そしてふたりは1日じゅう飛びまわり、空から、森のコピーヌたちみんなにニューイヤーのごあいさつをしました。
夕方、スカイがおウチに帰ると、お姉さんコピーヌのローズが怖い顔をして待っていました


「あんまり無茶なことしちゃダメよ」


それでもローズは、スカイのおでこのたんこぶに、やさしくクスリを塗ってくれました。
1週間ほどして、おでこのたんこぶが治ったころ、スカイはまた森に出かけ、新しい翼の工夫にとりかかりました。さあ、こんどはどんなフライトに挑戦するのかな?

カシミヤの森から、ハッピーニューイヤー!

今年も元気な夢をコピーヌたちとご一緒に!


 (つづく)

 (stories and concept by omrais and mycashmere)