《mycashmere》 original fantasy
『カシミヤの森のコピーヌ』

第16話「宇宙ホームシックのおクスリは?」

エンジェルベアがカシミヤの森にやってきて半年。

すっかりなかよしになって、カシミヤの森で楽しく暮らしていました。コピーヌたちもいつのまにか、エンジェルベアがどこか違う国から、エンジェルベアの場合は宇宙ですが、その宇宙から来たことをすっかり忘れて、もうずいぶん前から一緒に森で暮らすお友達のように思っていました。エンジェルベアも宇宙で過ごした日々を忘れ、コピーヌのみんなと同じようにカシミヤの森で暮らすのが当たり前のように思っていました。


きょうの午後、アレー彗星がカシミヤの森に接近するというニュースを聞くまでは。

「エンジェル、いまのニュース聞いた?」


きょうの午後、エンジェルベアはエボニーのお家で一緒にテレビを見ていました。

「100年に1度のアレー彗星が来るんだって。ドキドキするね」


エンジェルもドキドキしていました。だってアレー彗星は、むかし、エンジェルベアが暮らしていた星の仲間だったからです。宇宙で暮らしていた頃、エンジェルベアはときどきわが家星を飛び出して、ほうぼうの星へ遊びに行きました。アレー彗星はエンジェルベアが好きな星のひとつで、猛スピードで飛んでいく星の上にちょこんと乗っかって、まるでジェットコースターのようにスリル満点のスペース・クルージングを楽しんだものでした。

「アレー彗星か、懐かしいな」エンジェルベアはちらっとそう思いました。
「エボニー、じゃまたね」
「もう帰っちゃうの?」


エボニーの問いかけに答えず、エンジェルベアは黙って窓から空へ舞い上がりました。

カシミヤの森でいちばん高いビッグ・マウンテン。その頂上でエンジェルベアがひとり、沈む夕日を見つめて立っていました。エンジェルベアは宇宙で暮らした日々を思い出していました。どこまで飛んで行っても限りなく広い宇宙。何をするのも気ままだったし、じゃまする人はいませんでした。

ところが、ここ、カシミヤの森ではどうでしょう。確かに、カシミヤの森は空から見れば大きな島のように見えるけれども、エンジェルベアが本気になって飛んでいけば、あっという間に森は終わり。住む所といえば木のてっぺんにつくった小さな家。何かしようとすると、しょっちゅう集まって、ああでもない、こうでもない、と騒ぐコピーヌたち。広い、広い宇宙で気ままに暮らしてきたエンジェルベアにしてみれば、カシミヤの森はちっぽけで、つまらないものに見えたとしても、不思議ではありません。

「宇宙に帰ろうかな・・


夕日を見ていると、そんな気持ちが少しずつ強くなっていきました。沈んだ気持ちを抱えて、エンジェルベアは自分のお家に帰っていきました。

日が沈んだ、夜。エンジェルベアが家に帰ってみると、わいわい、がやがやとにぎやかに森中のコピーヌが集まっていました。みんなリュックを背負っています。どこかに旅行に行くのでしょうか。楽しそうに集まったコピーヌたちを大きな声で仕切っているのはエボニー。

「お弁当にジュース、おやつは持ちましたか? おこづかいは要りません。持って行っても向こうでは使えませんから。
エディ、ちゃんと順番に並んでよ!」



帰ってきたエンジェルベアをエディが見つけ、有頂天になって声をかけました。

「ヤッホー、待ってたよ。ビューンと行こうぜ」
 


エンジェルベアは何のことかわからず、きょとんとしています。

「これ、何かあるの?」
エボニーが言いました。

「大ありでーす! はい、これ」 

 

エボニーが示した手作りの旗には、こうありました。

  今夜いよいよ出発! エンジェルベアと行く100年に1度のアレー彗星見学ツアー 
  おひとり様わずか1万カシミヤ$!! 
  コーディネーター エボニー宇宙旅行社 


なんということでしょう。アレー彗星接近のニュースを聞いて、エボニーは勝手にとん でもないことを思いついたものです。 

「アハハハハハハハハハッハッハ」 
エンジェルベアは大笑いしました。なんだか、涙が出るほどうれしくなりました。 

「どうしたの? エンジェルベア」 


エボニーも、エディも、ベビーコピーヌたちも、みんな不思議そうな顔をしてエンジェ ルベアを見つめました。 

「なんでもないよ。エボニーのアイデアがあんまりおかしいから」 


そう言うと、エンジェリベアはエボニーの手作り旗を手に取り、自分でこう書き加えました。 

  アレー彗星名物 スリル満点の ジェットコースターサービス付き! 


エンジェルベアがエボニーにウインクすると、エボニーも最高の笑顔でウインクを返し ました。エンジェルベアはすっかり明るい気分になり、得意そうに背中の羽をビュンビュン 高速回転させました。 

「よし、絶好調だ。さあ、みんな、行くよ!!」 


その声を合図に、手に手をつないで1本の線のようにつながったコピーヌたちが、大空に向かって舞い上がっていきました。先頭を引っ張っていくのはエンジェルベア。晴れ晴 れとした笑顔を見ると、ホームシックはすっかり治っているようです。 

やっぱりひとりじゃないほうがいいよね、エンジェル! 

(つづく) 

(stories and concept by omrais and mycashmere)