《mycashmere》 original fantasy
『カシミヤの森のコピーヌ』

第24話「黄金のブラシを探せ 6 さよなら、ノースランド」

先頭のエボニーに率いられて、ノースランドの大地をつっぱしっていたイーノの大群。
でも、なんだか様子がヘンです。
かなり興奮していて、エボニーの言うことをききません。

「ちょっとキミたち、もう少し冷静になりなさいよ」

それでも、イーノはまったく聞く耳を持ちません。いっさいわき目をふらず、まっすぐ前しか見ていません。

というか、本当は前だって見ていないようです。要するに、目をつぶって突進しているのです。さすがのエボニーもちょっと怖くなってきました。

「かなり、ヤバイって感じ」


そのとき後ろのほうから、聞きなれた声が聞こえてきました。

「エ、エボニー、そろそろいいんじゃない? 止まろうよ」


エボニーが振り向くと、イーノから振り落とされまいとエディが必死にしがみついています。

「エディ、ごめん、わたしにもどうにもなんないのよ」
「ウソだろ、エボニー。もう限界だよ・・・・」


やがてイーノの大群が、ジャンボポーラーのお家の前にさしかかりました。

ドドドドドドド・・・・・・

ものすごい土煙をあげて、イーノが通りすぎていきます。
ジャンボポーラーと黄金のブラシは慣れっこのように、ひょいと後ろに飛んで、大群をかわしました。
しかし、一瞬動くのが遅れたベビーポーラーは、イーノの群れに吸い込まれてしまいました。

「アーーーーー」


すぐに反応したのは黄金のブラシ。

「おっと大変、助けなきゃ。じゃまたね、ジャンボポーラー」


黄金のブラシは輝くシッポをピシャッとひとうちして、イーノの大群を追いかけました。

「やれやれ、わたしはひと眠りするよ」


ジャンボポーラーはのっそりとお家の中に入っていきました。

そのころ、エディは・・・・・

「もうダメだあ。落ちるう・・・」
「弱虫だなあブヒ、これくらいでブヒ、泣かないでよブヒ」
「おまえなあ、生意気だぞ、イーノっていうんだろ」
「そうだブヒ、走るの得意なんだブヒ」
「きょうはもう走るの止めようよ、な、な、そうしよ!」
「無理だブヒ、いったん走り始めたらブヒ、1晩明けるまで止まらないブヒ」
「ウソーーーー、明日の朝まで?!」


そのとき、エディに語りかける声がありました。

「エディ?、エディ?」


横を見ると、ベビーポーラーが同じようにイーノにしがみついていました。

「あ、ベビーポーラー、来てくれたのかい。じゃあ、黄金のブラシも一緒だな。助けて、いますぐ助けて!」
「黄金のブラシはいないよ。いったいどうなっちゃってるの?」
「エボニーがレースを始めたんだ。ボクじゃないぞ。でも黄金のブラシはいないのか。・・・・・うん、名案があるぞ! 眠ってくれ、いますぐ眠っておくれ。パパポーラーに助けてもらおう」
「こんなところで眠れやしないよ」


そのとき、黄金のブラシがエディたちに追いつきました。

「ベビーポーラー、だいじょうぶかい?」
「はい、なんとかだいじょうぶで」
「イーノがこうなったらもう誰にも止められない。これからわたしがカシミヤの森に帰るトンネルのほうへ誘導する。キミたちとはここでお別れだ」
「わかりました。いろいろとありがとう」


エディは何かぶつぶつひとりごとを言っています。

「ここでお別れ?  冗談じゃない!身も凍るような思いでトンネルを抜けてきたのに、黄金のシッポの毛を1本も手に入れられないなんて・・・・・」


そのとき何を思ったか、イーノにしがみついているエディの右手が離れて、黄金のブラシのほうへ伸びていきます。黄金のブラシのシッポはキラキラ輝きながら、左右に元気よく振られています。
あとちょっとでエディの手が届きそう、
と思ったとたん、黄金のブラシは加速して駆け出していきました。

「じゃあ、行くよ!」


エディの手は空振りして落っこちそうになったので、あわててイーノにしがみつきました。

「やい、何をたくらんだんだブヒ、大失敗だなブヒ」
「うるさい、黙って走ってろ」


くやしくて涙目になったエディでした。それからまもなく、先頭を走るエボニーの目の前に、黄金に輝く物体が目の前に飛び出してきました。伝説に聞いていた黄金のシッポがでっかい束になって、
目の前を右に左に揺れています。エボニーはびっくりしました。

「・・・どういうこと。何がどうして、こうなってるの?」


ノースランドに着いてから、きままに歩き回ったり、イーノに乗っかって走り続けていたエボニーは、黄金のブラシのことは何も知りません。

きつねにつままれたように、きょとんとしてイーノにしがみついているエボニー。

黄金のシッポを1本も手に入れられなくて、泣きながらイーノにしがみついているエディ。
ノースランドの物語と突然の別れに想いをはせながら、イーノにしがみついているベビーポーラー。
3者3様の思いをのせて、イーノの大群はトンネルめざして走ります。
黄金のブラシを先頭にして。

やがて黄金のブラシはトンネルの入り口までくると、するりと横にステップ。
先導者を失ったイーノの大群はそのままトンネルの中に突進していきました。


そしてわずか10分後、暗闇の中を走り続けてきたイーノの大群が、再び黄金のブラシの目の前に現れ、そしてそのままノースランドの大地に散らばっていきました。


黄金のブラシは満足そうに見つめていましたが、イーノが1匹少なくなっていたことには気づきませんでした。

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カシミヤの森、北のはずれのビッグマウンテンの麓。

トンネルの入り口に3人の勇者が、疲れ果てて立っていました。
旅に出かける前に持っていたリュックはどこにいったのか、誰も何も持っていませんでした。
パパポーラーの手編みセーターもボロボロに傷んでいます。

「帰ってきたんだ・・・・・」
「帰ってきた・・」
「ただいま」
「ここかブヒ、お前たちの国はブヒ」


3人が足元をみると、1匹のイーノ。

「あー、おまえ、生意気なやつ」


カシミヤの森に、伝説がまたひとつ、仲間がまたひとり、増えたのでした。

(つづく)

(stories and concept by omrais and mycashmere)