《mycashmere》 original fantasy
『カシミヤの森のコピーヌ』

第2話「ポーラーベアのスローフードな毎日」

「ふぁ〜」

 お気に入りの木の葉のベッドの中で、ポーラーベアが気持ちよさそうに目をさましました。

お日さまは高くのぼり、もうすっかりお昼。窓から見える庭には、そよ風にゆらゆら揺れるハンモック。

その下のほうには、ちょっとヘンな日時計が見えます。

文字盤の時刻の目印はたったひとつだけ、とても元気な字で 『→朝ごはん』。

ちょうどいまそこに、とんがった黒い影の針が届いたところです。

「きょうもぴったり。おなか、すいた」

ポーラーベアはキッチンのテーブルの上に大きな木の葉を広げ、クニュ、クニュっと小麦粉をこねはじめました。

ポーラーベアは料理がとっても得意。きょうも朝ごはんのパンを自分でつくります。

でも性格と同じように、とってもゆっくり、のんびり‥‥。

「どんなパンにしようかな?‥‥きのうは何パンだったっけ?」

「ジャムパンだったよ」


いつの間にかキッチンの窓から、エディの顔がのぞいています。







「やあ、エディ。おはよう」
「ちっとも早くないよ、もうお昼だよ」
「どうしてジャムパンだったって知ってるの?」
「たくさんつくったからって、持ってきてくれたじゃないか。
でも夜だったよ。朝ごはんならもっと早くしてよ」

それでもポーラーベアはニコニコしながらゆっくり小麦粉をこねます。

「きょうはアンパンにしよ」

「じゃまたね。ボクいそがしいから。
これからベビーたちとクリケットするんだ」


「またあげようか」
「うん。夕方よってみるよ」
「ベビーたちもいっしょにね」
「でも、それまでにでき上がっているといいんだけど」


ポーラーベアは、のんびり、のんびり、粉をこねつづけました。

途中、読みかけの本を持ってきて、テーブルのはしっこに広げました。
両手でパン生地をこねながら、顔はテーブルのはしっこ向いて本を読みます。
ときどきパン生地をテーブルにドンとぶつけると、あら不思議、くるりとページがめくれます。
ポーラーベアっ<て、本当はとっても器用なのかも。

でも、おもしろいところにくると本に夢中になってしまい、パンをつくる手のほうは止まりがち‥‥

お日さまが傾きかけた頃に、ようやく、まあるい大きなパン生地が1個できました。




「ここでちょっと、おやすみタイム」

やっとここでおいしいパンづくりのポイント、発酵の時間です。

ひと仕事を終えた気分で、ポーラーベアは庭のハンモックにもぐりこみました。気持ちよく揺られているうちに、いつの間にか目がトロンとしてきて‥‥

おやおや、パパポーラー、パンのほうは大丈夫?

そこへ約束どおり、クリケットで遊んだエディとベビーベアたちがやってきました。 

最初にポーラーベアを見つけたのはココ。
「あー、やっぱり寝ちゃってる」

キッチンをのぞいたエディは、
「まだ大きなパン生地しかできてないよ」

いつのまにかハンモックに上ったリラは

「ポーラーベア、ほんとにのんきなんだから」

と言いながら、やさしそうにすりすり、ほっぺたっちしました。

みんなポーラーベアののんきな性格が大好きなのです。エディたちが楽しかったクリケットの話をしながら帰ってからも、ポーラーベアは気持ちよさそうにスヤスヤ。

朝ごはんのパンは、いったいいつになったらでき上がるのでしょう。

「ふあ〜、よく寝ちゃった。さあお楽しみはこれから、これから」

キッチンにもどると、パン生地はじゅうぶんに発酵していて、
まるでエボニーベアご自慢のビーチボールのように大きくふくらんでいます。
それを小さくちぎって、クルクルッとまるめて、ポンとテーブルに。

また小さくちぎって、クルクルッとまるめて、ポンとテーブルに‥‥。

まっ白いポーラーベアの両手がマジックのようにすばやく動いて、まんまる生パンが次々とテーブルの上にならんでいきます。くるみでつくったおいしいアンも、まん中に上手に入れてあります。

パン作りの名人はきょうも大満足のご様子。

「はい、準備はおしまい」

ここまでくると、いよいよ最後の仕上げ。さあ急いでポーラーベア、もう夜中になっちゃうよ。

ポーラーベアはレンガでつくった自慢のオーブンの前に行き、よっこらしょ、と中を覗き込みました。

「ん?」

おや、どうしたのでしょう?

「ま、き、が、な、い」

毎日毎日パンをつくっていたので、オーブンの燃料のまきがなくなっていたのです。

さあ大変、どうするの?

でも、さすがポーラーベア。ちっともあわてません。

ゆっくりとエプロンをはずし、代わりに大きなリュックを背負うと、そのまま家を出て、
口笛をふきながら夜の森の中へ入っていきました。

誰もいなくなったキッチンのテーブルの上には、愛らしくまんまるに仕上がった生パンたちが、
「早くこんがり焼いてよ」という顔をしながら、お行儀よく整列しています。

おや、いちばんはしっこの1個の下にエディあてのメッセージが‥‥



 エディへ 
  超とっきゅうの大いそぎ 
  森でまきをひろってきます 
  日時計が3回まわったら 
  かえってくるよ 
  ポーラーベア

いつもゆっくり、マイペースのポーラーベア。
手づくりパンがほっぺがおちるほどおいしいのも、こんなにていねいにつくっているからなのね。

(つづく)
(stories and concept by omrais and mycashmere)