《mycashmere》 original fantasy
『カシミヤの森のコピーヌ』

第4話「バンの秘密の山ぶどう」

バンは、コピーヌベビーベアの7人兄弟姉妹の6番目。いつもきれいになりたいと思っている、おしゃれな女の子ベア。

バンという名前は、フランス語のVinからついた名前です。フランス語のVinは英語にするとWine、そうワイン。バンのからだは素敵なワインカラーのカシミヤでした。

「ねえバン、どうしてそんなにきれいなワインカラーなの?」
「さあどうしてかしら」


自分のカシミヤがほめられると、バンはちょっと気取ってポーズをとります。バンにとってはとてもきれいで大切なカシミヤですから、いつも上等な馬のしっぽのブラシでせっせと手入れをしています。

朝起きたとき、おでかけ前、ランチの後、そしておやすみ前。
ブラシのかけ残しがないよう、最後に鏡に全身を映して確かめます。

そんなときに必ずやってくるのが、いたずらっ子の妹、リラ。バンが、さあこれでよし、とブラシを置いたとたん、バンにとびついて、すりすり、ほっぺたっち。

「バンのカシミヤって、ほんとに気持ちいい!」
「やめてよ、リラったら!」


そこでしかたなく、ブラシをもう一度かけ直すってわけ。バンのカシミヤがきれいなのは、こんなに手入れをしているから。

でも、そんなバンのきれいなカシミヤには、誰も知らない秘密があったのです・・・。

なかよしコンビのエディベアとエボニーベアです。

とてもお天気のいい、夏のある日。

コピーヌベビーベアたちはそろって、森の泉へ水遊びに出かけることにしました。

でもバンだけは「お留守番するわ」といって残りました。

そして、みんながでかけた後、バンはこっそりおウチを抜け出して、泉とは反対の方角へいそいそと歩き出しました。

あれれ、どこに行くの? 普段なら誰も来そうにない森の奥、静かな小道を、バンが歩いていきます。

と、バンは急に足を止めました。見ると、道の真ん中に2本の小枝が置いてあります。
2本の小枝ははしっこでくっついていて、Vの字のようにも見えます。

「VinのVの字。この枝が目印よ」
バンは目印のあるところから右の茂みへ入り込み、5メートルほど行ってから、そっと上を見上げると‥‥

ありました。今年も、やっぱりありました。

夏の日差しを受けて、見事に育った山ぶどうの木。おいしそうな実がたわわにぶらさがっています。


バンは手を伸ばして実をむしり取り、その場に座りこんでむしゃむしゃと食べ始めました。

「ああ、おいしい。」


そこはバンだけが知っている、秘密の山ぶどうの木。コピーヌたちと遊んでいるときにバンだけが偶然に発見しました。そう、バンのカシミヤがとてもきれいなワインカラーなのは、毎年、新鮮なこの山ぶどうを食べていたからなのです。

「こんなに小さな木なんだもの、ひとりじめしたっていいじゃない」


やがてバンは、今年の実をすっかり食べ尽くしてしまいました。でもなんだかもの足りません。

ふと下を見ると、石の上にきれいな色の水がたまっています。その水が、ほんのりきれいなワインカラー。不思議に思って中をのぞいて見ると、上の木から山ぶどうの実が落ちて、割れて、溶けて、なんだかいい香り。

バンは長女のローズから、いつも言われていることを思い出しました。

「流れる水はいいけれど、水たまりの水はおなかをこわすから飲んじゃだめよ」
でも、いまバンの前にある水は、汚れた水ではありません。バンのカシミヤと同じような、きれいな色をしていて、なんともいえない素敵な香りを放っているのです。バンはおそるおそる、指を1本使ってその水をなめてみました。

「おいしい!」

指を使って、もう1回なめてみました。

「やっぱりおいしい


もうこれ以上、がまんできません。バンはローズの言葉を忘れて、その色のついた水をゴクゴクと全部飲み干してしまいました。

「ふあー、おしいかった」


ほんのり甘くて、ちょっぴり渋くて、なんだか苦味もあって、いままで飲んだことがない、本当においしいジュースでした。バンは大満足しておウチに向かって歩き出しました。

日が傾きかけた頃、コピーヌベビーベアのおウチでは、水遊びを終えたコピーヌたちがハンモックに揺られてくつろいでいました。

そこへバンが、あっちにふらり、こっちにふらり、からだを揺らし、大きな声で楽しそうに歌いながら帰ってきました。



「るんるん、るんるん、るんるん、るんるん、
あ、わーい、みんな、かえってちゃの?
うふふふ、バンわー、

森の中なんか行ってないよん、
なんにも食べてないしー、ヒック、

ふふふ、
ジュースなんかゼッタイ飲んでないんだから。
でも、ちょっと、ねむ〜い、
ふ、ふあ〜〜、ヒック、おやちゅみ、ヒック」




バンはおウチの前に並んだハンモックのひとつにもぐりこむと、そのままグーグーねむってしまいました。

何がなんだかわからないのが、コピーヌベビーベアたち。

「バン、どうしたの?」


リラがバンの寝顔をのぞきこみました。

「あ、バンのカシミヤが光ってる!」


リラの声でみんなが集まってきました。見ると、不思議なことに、バンのきれいなカシミヤが、いままで見たことのないくらい、ひときわ鮮やかなワインカラーに輝いています。

「バン、どこに行ってきたんだろう?」
「何か食べてないとか、何も飲んでないとか、言ってたね」
「何を食べたんだろう?」
「何を飲んだんだろう?」


カシミヤの森でも、今年はいいボージョレ・ヌーボーができたようです。

(つづく)
(stories and concept by omrais and mycashmere)