《mycashmere》 original fantasy
『カシミヤの森のコピーヌ』

第10話「クリスマス 恋のキューピット大作戦はじまる」

パパポーラーのお家では、ひとあし早くクリスマスケーキ作りが始まっています。

パパポーラーが選んだ今年のクリスマスケーキはカカオの風味と香りが豊かな特製のチョコレートケーキ。キッチンにはベビーコピーヌの2番目の女の子、ココがやってきて、パパポーラーの助手をつとめています。


「チーズケーキもいいなあ。いまから変えられない?」


いつもはパパポーラーがお昼寝している庭のハンモックで、きょうはエボニーがのんびり揺られています。手に持っているのは「本格手作りのケーキ・レシピブック」という本。表紙に「上手な人に作ってもらおう!」というキャッチコピーが見えます。

「ねえ、今年はどうしてチョコレートケーキなの?」

パパポーラーはのんびりキッチンの中を動いています。よいしょ、よいしょ、と、かわいい掛け声をかけながら小麦粉を運んでいるココが答えました。

「わたしのリクエストなんだもん」

ココはチョコレートが大好きな女の子。「ココのカシミヤはほんのりチョコレートの香りがする」といつも リラたちが言うくらい。

「ふーん、そう。でも、いままでのクリスマスケーキはパパポーラーのカシミヤと同じまっ白な生クリームのデコレーションだったけど」


クスクス、ココが笑い出しました。

「何かワケがあるの?」
「ホントはね、私のリクエストじゃなくて、キョウのリクエストなの」
「どういうこと、それ」
「キョウがクリスマスパーティに連れてくる女の子ね、ハナっていうんだけど、チョコレートケーキで大失敗したんだって。それをキョウが大笑いしちゃって、ケンカになったんだって」
「でも僕は、そんなつもりじゃなかったんだよ」


そのとき、ひとりの男の子がキッチンに入ってきました。

「あ、キョウ、いつ来たの?」
「ついさっきだよ。エディの家に寄ったら、ケーキ作りがはじまったっていうから、来たんだ」
「ねえねえ、どういうこと。話してみてよ」

キョウはコピーヌたちと大の仲良しの人間の男の子。

カシミヤの森からほど近いパレットタウンに住んでいて、ハイスクールに通っています。バスケットボールが得意で、いつもボールを持ってドリブルしながら、カッコよくステップをふみます。ガールフレンドも多いのですが、キョウのいちばんのお気に入りはハナ。今度のカシミヤの森のクリスマスパーティには、カップルでやってくることになっているのです。

「この前、僕の誕生日にハナがチョコレーチケーキをつくってくれたんだ。とっても素敵なデコレーションがしてあったんだけど、ひとくち食べるとしょっぱくて。シュガーとソルトを間違えちゃったらしんだ。僕は楽しくなって思わず笑っちゃったら、ハナが泣き出しちゃって‥‥。ハナをキズつける気なんてぜんぜんなかったんだ。あれから2週間になるけど、ひとことも口を聞いてくれない。僕ってサイテーだよ」
「ホント、サイテーね。それで、どうしてパパポーラーのクリスマスケーキなのよ?」
「カシミヤの森のクリスマスパーティで仲直りしたいんだ。
こんどは僕がケーキをつくってハナにプレゼントするんだ」
「そういうわけか、なるほどね」
「さあパパポーラー、教えてよ。一生懸命つくるよ」


そう言うと、キョウはリュックからエプロンを取り出して身に着けました。

キョウとハナのために、今年はどうしてものクリスマス・イブにチョコレートケーキを間に合わせなければなりません。助手のココは責任重大といった感じで、ちょっと緊張ぎみ。もちろんキョウは、必死というか、真剣そのもの。

パパポーラーは、あれれ、やっぱりのんびり、いつもと同じようす。デコレーション用のクルミを見つめて、ぼんやりしています。

でもこのぼんやりから、ものすごくおいしいケーキが生まれるのですから不思議です。

で、エボニーはというと、相変わらずなんにも手伝わないのに、シュガーの加減がどうの、ナッツのデコレーションがどうのと、くいしんぼうなリクエストを出し始めています。ま、毎年のことですけど‥‥。

こうしてキッチンスタッフがそろい、口うるさいギャラリー1名も加わって、クリスマスーキ作りが始まりました。今年のオーダーは、カシミヤの森のクリスマス名物ジャンボ・チョコレートケーキと女の子が大好きなおしゃれでかわいいチョコレートケーキ。

お届けは12月24日午後7時、お届け先はエディのお家のホームパーティ。さあパパポーラー、ココ、キョウ、急いで、急いで!

*
そのころエディのお家にはコピーヌたちが集まり、クリスマスパーティの準備のためのミーティングをしていました。

「ベビーポーラー、起きてるかい。始めるよ」(エディ)
「‥‥まだちょっと眠いけど、いいよ」(ベビーポーラー)
「じゃ、仕事の分担を発表します。ベビーポーラー、ベビーエボニーはクリスマスツリーに使うモミの木を森から持ってくるんだ」
(エディ)
「オッケー」(ベビーポーラー)
「どのくらいの大きさがいいの?」(ベビーエボニー)
「大きいほうがいいけど、大きすぎても困るなあ。ずいぶん前になるけど、ハニーバニーが持ってきたモミの木ったら、あんまり大きすぎてパーティをやるエボニーの家に入らなかったんだ。仕方がないから窓からつっこんだんだけど、根っこのほうは外に出たまんま。結局、部屋に入っていた上半分にだけオーナメントを飾ったんだ。家の中の壁に横から生えているクリスマスツリーを見たのははじめてだったよ。エボニーは最高におもしろがってたけどね」(エディ)
「わたしたちが生まれる前のクリスマスね」(ローズ)
「そうだよ。ずっと、ずっと、昔のことだよ。いいかい、ベビーポーラー、ベビーエボニー、モミの木はボクの家に入るくらいの大きさにしといてくれよ」
「うん、わかった」
(ベビーポーラー、ベビーエボニー)

「じゃ、次はスカイ、キミは高いところが得意だから、エントツ掃除」
「もっと高くても大丈夫だよ」
(スカイ)
「今回はいまのままで頼むよ。キミのリクエストに応えているとエントツのほうをリフォームしなくちゃいけなくなっちゃうよ」(エディ)
「アハハハハ」(リラ)
「ローズ、バン、リラは飾りつけをお願いするね。ボクのパーティだから、思いっきり楽しく、素敵にしたいんだ」
「まかせてよ」
(ローズ)
「ごほうびに、おいしいワインも用意してね」(バン)

「また酔っ払っちゃうよ、バン」(リラ)
だめよ、バンにはまだワインは早いの」(ローズ)
「はーい」(バン)

「これでみんな仕事は決まったよね」(エディ)

「エンジェル・ベアは何するの?」(リラ)
「大事な連絡係をやってもらうよ。空をひとっとびエアメール便の大活躍さ」
「きょうは来てないけど」
(バン)
「さっそくひと仕事してもらっているんだ」(エディ)
「ねえ、エディ。ハニーバニーもどうしたの?」
「キョウのために大事な仕事をしてもらう。でも、いまは秘密。」


こうしてみんなが手分けして、パーティの準備が始まりました。

でもハニーバニーの秘密の仕事って、またエディは何かたくらんでいるのでしょうか? 

ちょうどその頃、カシミヤの森の上をエンジェル・ベアが飛んでいました。ちょっと大き目のメールボックスを抱え、パレットタウンをめざして。いったい何を、誰に届けに行くのでしょう?

(つづく)

 (stories and concept by omrais and mycashmere)