《mycashmere》 original fantasy
『カシミヤの森のコピーヌ』

第19話「黄金のブラシを探せ 1: 探検隊、出発」

おだやかな日差しの午後、パパポーラーが庭のハンモックにゆらゆら揺られています。

手には1冊の本。タイトルは「カシミヤの森の伝説」。ずいぶん古い本で、表紙はすりきれているし、あちこち破れています。パパポーラーのお家に古くからある書庫から3日前に取り出して読み始め、いま読み終えたところです。

「黄金のブラシか‥‥」


パパポーラーは本をパタンと閉じました。その拍子に本の中から1枚の紙が落ちたのに気づきませんでした。そこへ森のコピーヌたちが全員そろってやってきました。先頭に立っているのはエボニーです。

「パパポーラー、教えてよ。黄金のブラシのこと」

コピーヌたちの目は好奇心いっぱいで、キラキラ輝いていいます。エディが続きました。

「黄金のサラブレッドのシッポでつくった
黄金のブラシって、本当にあるの?」


最近、黄金のブラシのことは、カシミヤの森で話題の的になっていました。


コピーヌたちのカシミヤのお手入れは、いつも馬のシッポの毛ブラシ。ブラシの色はブラウンか、ブラックか、ホワイトです。

ところが最近、どこかに黄金のブラシがあるという噂が広がり、コピーヌたちは誰でも道で会うとその話ばかり。そのうち詳しいことを知っているのはどうやらパパポーラーだけということがわかり、こうしてみんなそろってやってきたのです。

「黄金のブラシは本当にあるよ」
「やっぱり!」

「どこにあるの?」
「北のほう、ノースランド」
「ノースランド?」
「カシミヤの森の北には、ビッグマウンテンがあるだけだよ」
「そのまた北に行けるんだ。この本に書いてある」


そのときリラがハンモックの下に落ちている紙を見つけました。ずいぶん古くて、ほうぼう虫に食べられています。手にとって広げてみると、とても古い地図でした。

「パパポーラー、これなあに?」
「うん? ああ、落ちたんだね。それはノースランドに行く地図だよ」
「えー! 見せて!」
「その地図の通りに行けば、黄金のブラシに会えるよ」
「・・・会える、って、どういうこと?」
「ふふふふ、行けばわかるよ」


パパポーラーはなんだか楽しそうに笑っています。

「よし、行こう!」
「ボクも行く」
「私も」


みんなが勢い込んで声をあげました。その声を静めるように、パパポーラーは言いました。

「行けるのは3人だけ」
「どうして?」


パパポーラーはのそりと起き上がって家の中に入ると、3枚のニットのセーターを持って
きました。

「これが探検隊のユニフォームだよ。3日前からつくりはじめて、3枚が間に合った」 
「どうしてセーターがいるの」
「寒いんだ。セーターがなければ死んじゃうかもしれない」
「わたしたちのカシミヤはこんなにあったかいのに」
「そう、どんなにカシミヤがあったかくても、セーターは必要なんだ」


パパポーラーは静かに、しかしきっぱりと断言しました。

「そんなに寒いところに、黄金のブラシがあるのか」
「じゃあ、子供たちはダメなの?」


パパポーラーが威厳を持って、続けて言いました。

「探検隊のメンバーはわたしが決めるよ。まず、エボニー」
「ハイ、まかせてよ」
「次に、エディ」
「よし! やった!」
「最後に、ベビーポーラー」


一瞬、みんなが驚きました。子供のベビーポーラーの名前が出てきたからです。

「どうして? ボクが?」
「ベビーポーラーはわたしとの連絡役だ。困ったことが起きたときに、わたしたちは夢の中で連絡し合う」
「わかりました。ボク、行きます」
「ベビーポーラー、しっかり」

ローズが声をかけると、残ることになった6人のベビーコピーヌたちがベビーポーラーを囲み、手をしっかりと握りながら心からの応援を捧げました。こうしてエボニー、エディ、ベビーポーラーの3人のコピーヌが、黄金のブラシを求めて、ノースランドへ旅立つことになりました。

翌朝、パパポーラーのお家。セーターを着て、旅支度をととのえた3人のコピーヌがそろいました。

「気をつけるんだよ、エボニー、エディ、ベビーポーラー」
「はい、パパポーラー。必ず黄金のブラシを見つけてきます!」


とても元気な声で、エボニーが3人を代表して答えました。そして盛大な見送りを受けながら、大きなリュックを背負ってノースランドへ旅立っていきました。

「ローズ、大丈夫かなエディ」
「どうしたの、リラ」
「エディったらね、探検はお腹がすいたら大変だからって、リュックにドーナッツを100個も入れていったんだよ」
「そんなに!」
「エボニーだって、北のほうならきっと雪遊びができるって、スキーやスケートボードを入れてったよ」
「それであんなにリュックがふくらんでいるんだ」


思わず無言で顔を見合わせたコピーヌたち。本当に大失敗しなければいいのですが・・・・・。


こうして、3人のコピーヌはカシミヤの森を後にし、黄金のブラシをめざす探検の旅が始まりました。

(つづく)

(stories and concept by omrais and mycashmere)